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 ■TAKOYAKI旋風記 〜祝!一周年だよ関東ロケ!〜■ 

 「こんにちは、TAKOYAKIの平石です。」

 カメラ目線で語りかける平石。
返事をしてくれる者はいないが、そのまま未来の視聴者に向けて喋り続ける。
放送は2週間ほど先の予定だ。

 「ご覧になって頂いてる通り、ここは海です。見覚えのある風景だと思いますけど、お察しの通り我々は神奈川県に来ているんですよ。」

 カメラが平石から移動すると、遠くに見える江ノ島が確認できる。

 「てなわけで、今週のTAKOYAKI旋風記は、祝!一周年だよ関東ロケ!で、お送りしたいと思います。」

 番組のオープニングを撮る平石の隣では、とても疲れた様子で相方の辻本がボーっと立っていた。
いつまでもスイッチが入らない辻本を、平石がたしなめる。

 「ちょっと。挨拶ぐらいして。」

 しかし、辻本は眠そうに頭を横に振るだけ。

 「めんどい…。」

 ボケが半分、素が半分といったところだろうか。

 「いや、仕事やからw」
 「だって今日、何時入りやった?ここ来るまでに疲れてもうたがな。ふぁぁぁ…。」
 「おまえ、クルマの中でずっと寝とっただけやないかw 早よしようや。時間ないねんから。」
 「うるさいなぁ…。」

 首を大げさに振ると、ようやく辻本は閉じていた目を開いてカメラを見た。

 「ちーす、辻本でーす。朝起きたら、家がジャングルになっていました。どないしよー。ていうか、ねむい…。」

 そんな彼の態度に平石は苦笑い。

 「テンション低いなぁ。」

 辻本は平石を睨みつけると、一気に溜まった言葉を捲し立てた。

 「当たり前じゃ!何でわざわざこんな場所まで来なあかんねん!神奈川まで来やんでも、海水浴場なんて関西にもいっぱいあるやんけ!須磨とか白浜とか!」

 イライラとなる辻本とは対照的に、平石は節々で笑いを滲ました余裕を見せながら一つ一つを返していく。

 「いや、そうやけど。やっぱり若者の集まる海といえば、湘南じゃないですか。」
 「たかだが関西ローカルの番組のくせして、こんな場所まで来させやがって。だいたい、よくそんな予算あったなぁ?」
 「コラ、おまえはそういうこと言うな!w 憶えてないんですか?今週でTAKOYAKI旋風記は一周年ですよ。」
 「もう一年か?よくそんなに続いたのう。」
 「その記念として、今週はいつもより豪華に、関東でロケしようということになったんですよ。ありがたいことじゃないですか。」
 「そんなんいいから、ギャラ上げてほしいわ。毎週毎週、安いギャラで身体、張らせやがって。」

 そればかりは、平石も異義はない。
全くその通りだ。

 「いや、それは確かに思うけどw とにかく今日はいろいろ廻りますよ。楽しませてもらいましょう。」
 「具体的に何すんねや?」
 「観光地巡りですよ。僕たち、関東は初めてでしょ?ベタな有名所をあちこち廻って、東京のおもしろ人間を観察しようやないかいって、楽しい企画です。」

 平石の説明に、思わず脱力する辻本。

 「観光ってさ、普通は建物とか景色とか眺めるもんやろ。何が悲しゅうて、東京の変人なんかと絡まなあかんねんw」
 「しゃあないやろ、そういう企画なんやから!オレだって本音ではそんなん、したないわw」

 わざわざ関東まで出向いて、やることがこれである。
酢豚を頭からかけられたり、プロレスラーにビンタされたり、キックボクサーに延々と蹴り続けられるような身体を張ったネタでないだけマシにも思えるが、けしてそういうものでもない。
ぶっつけ本番の誰とも知れない素人との絡みは、ある意味ではそれら以上に神経をすり減らす。
テレビ慣れしていない素人で笑いを起こすのが、彼らの役目、腕の見せ所なのだが、この手のロケは何かと疲れるものだ。
辻本は、平石もけして乗り気ではないことに気がついていた。

 「なぁ…始まる前からオレらがこんなんで、誰が喜ぶねん?w」
 「そうやけど、そこはね、ほらw」

 平石も辻本の気持ちを感じ取ったようだ。
コンビの関係にある芸人は、言葉はなくともお互いの考えは何となく伝わるものがある。
そうでなくて、おいしいボケに鋭いツッコミをどうして入れることが出来ようか。

 「とにかく時間ないですから。まずはここの海岸から始めましょう。」
 「ていうか…。」

 辻本は周囲をグルっと見回す。

 「誰もおらへんやん。」

 平石もそのことは、すでに気が付いていた。

 「…まぁ、1月ですしね。」
 「そんなん当たり前やんけ!こんな寒い中で誰が泳いでんねん!こんなん企画倒れじゃ!誰や、考えたアホは!?」
 「いや、そうですけど…。」

 言葉に詰まる平石。

 「どうするの?人、捜してみる?」

 カメラの脇に立っている、プロデューサーに意見を求める。
意見を求められた眼鏡の男性は、言葉を発さずに頷いて答えてみせた。

 「じゃあ、ちょっと歩いてみましょか?」
 「そりゃ、人ぐらいどっかにいるやろうけど、そん中でおもしろ人間見つけんとあかんねやろ?絶対ムリやってw」

 辻本はどうにもやる気のないことばかり言っているが、それも彼のキャラクターなので仕方がない。
フォローして上手く笑いに持っていくのが、相方である平石の役目である。




 波の音を背景に、TAKOYAKIの二人は江ノ島の方角へ砂浜を歩いている。
彼らの後ろを、撮影機材を抱えたスタッフたちがゾロゾロと付いていく。
もちろんテープは回したままだ。
冬のただ中とはいえ、午前の日射しはポカポカと暖かい。

 「あー、もう靴が砂でドロドロや。人なんてどこにもおらんがな。」

 さっきから辻本はブツブツと言い通しだ。
平石も適当に相手をしている。

 「まだ歩き始めたばかりやんけ。そない結論、急がんでも。」
 「だってしんどいもん。なんか靴の中に砂とか入ってくるし。」
 「出せばええやんけ。お?」

 ようやく平石は、堤防を背にして座っているグループを見つけることが出来た。

 「あー!いました、いました!何人かあっちに集まってますね。」

 辻本も気がついたようだ。

 「あぁ。いるけど、子供やん。」

 幼稚園児ぐらいの子供が二人、そしてその姉らしき中学生ほどの少女が楽しそうに喋っているのがわかった。
贅沢は言っていられない。
お子さまをネタにすると、彼らの求める笑いとは質が変わってくるのだが、ある意味では子供の方が視聴者の受けはいい傾向にある。
平石は声をかけて近付いていった。

 「こんにちはー。」

 最初に男の子が、彼らに気付く。

 「あー!カメラだ!テレビカメラだよ!」

 続いて女の子が騒ぎ出す。

 「え?ネネちゃん、写ってるの?」

 年上の少女は二人の子供ほど彼らのことを理解していない様子で、不思議そうな顔をしている。

 「こんにちは。カメ?」

 男の子がカメラレンズを見つめながら、誰にでもなく尋ねる。

 「これ、テレビ?」

 よく似た顔をしているところを見ると、二人はおそらく双子なのだろう。
平石はしゃがみこんで男の子と女の子と視線を合わせると、できる限り緊張させないような態度で話し掛けた。

 「うん、そうやねんけど…。君ら、僕らのことわかる?大阪でお笑いやってんねんけど。」

 しばらく考え込んだ後、二人は顔を見合わせて答えた。

 「知らない。」
 「知らないよね。」

 平石の後ろで、辻本が自虐的な笑いを浮かべて吐き捨てるように言った。

 「当り前や。関西でも知らん奴のが多いのに、なんで関東で知ってるやつがおると思ったんや?w」

 双子はそんな辻本にはお構いなしに、好奇心いっぱいの目で彼らを見つめている。

 「放送日いつ?」
 「チャンネルいくつ?」

 申し訳なさそうに、平石が答えた。

 「あ、これ関西ローカルやから…。残念やけど、こっちでは放送せえへんわ。」
 「なんだ…。ツヨシくん、つまんない!」
 「ネネちゃんも、つまんない!幼稚園でみんなに教えてあげようと思ったのに。」
 「あっ。君ら、幼稚園に行ってるんや?」

 平石はこの線で攻めてみることにした。

 「それでは、二人は幼稚園で何が得意ですか?教えて下さい。」

 二人の子供は、とても元気に質問に答えてくれた。

 「えっとね、粘土にお絵描きにドッヂボール!」
 「工作にお歌にお昼寝!」

 辻本がカメラに振り向きながら、ボソっと呟く。

 「昼寝って、得意とかあるの?w」

 平石の方は、大げさに感心した様子を見せた。

 「そうなんや、二人は得意なことが多いねんなぁ。」
 「うん、藤吉家王国憲法第79条!」
 「何でもがんばってやりましょう!」

 子供が興奮して話す言葉は、意味がよく伝わらない。
しかし大概の場合において、それらは大した意味を含まないものだ。
平石はスタッフに、ジェスチャーで合図を送った。

 「そうや。今ちょうど、お兄さんら紙持ってるし、せっかくやから何か描いてくれへんかなぁ?」
 「いいよ!何を描いたらいい?」
 「何でも描いちゃうよ。」

 絵を頼まれたのが嬉しかったらしく、二人は目をキラキラさせて立ち上がった。
とりあえず掴みはバッチリだ。

 「そうやなぁ。じゃあ、二人の大好きなもの!」
 「はーい!」

 平石はスタッフから受け取ったスケッチブックとマジックペンを、二人に手渡した。

 「あの、わたしも描いてもいいですか?」

 姉らしき少女は、夢中になってペンを走らせる二人の様子をウズウズと眺めていた。
断る理由は何もない。
むしろ彼らのテンションを上げることは、撮影を行う上でも都合がいい。

 「うん。じゃあ、お姉さんも好きなものを描いて下さい。」
 「はーい!」

 少女は小さな二人と同じように元気な返事をすると、受け取ったスケッチブックにサラサラとペンを走らせ始めた。




 絵を描き始めると、子供たちは誰も口を開かなくなった。
誰も喋っていない状態では画にならないので、平石は辻本に向かって話し続ける。

 「さぁ、何を描いてくれるんでしょうね。」
 「好きなものやからなぁ。予想すると…ウンコとかちゃうか?」
 「コラ!誰がそんなもん好きやねんw」
 「わかりませんよ。この年頃はそういうのが好きやから。」
 「そうやけど。いくらなんでもそんなん描かんでしょ。男の子やったらね、船とか飛行機とか。女の子やったら、おヒメさまとか動物とか。あとはアニメのキャラクターとか、そういうもんじゃないですかね。」
 「あぁ。ダースベイダーとかケンシロウとかね。」
 「幼稚園児がそんなもん描くか!実際に描いてたら、別の意味で尊敬するわw」

 辻本はファイティングポーズをとると、平石をいかにもな険しい顔で睨み付けた。

 「オマエはもう、死んでいる。」
 「あれ?スイッチ入ったぞ?」
 「アータタタタタ!アータタタタタタ!ホアター!」

 誰が見ても威力のない突きを、平石に向かって何度も繰り返す。

 「ヒコウの一つ、物真似をついた。オマエは誰かのモノマネをせずにはいられない。」
 「うあ!ケンシロウめっ!ううぅぅぅ…!」

 ヒコウを突かれた平石は、大げさに苦しむ様子で身体を振る。
振られた以上は答えるのが、芸人としての義務である。

 「ウゥ〜ベイベ♪みんな、今日はありがとう!」

 時が止まる。
カメラ目線で笑顔のまま固まっている平石の隣に、辻本が近付く。

 「…誰?」

 照れた感じで平石が答える。

 「イマシュン。」
 「イマシュン!?今川瞬!?」

 馬鹿にしたような口調で攻める辻本に、顔を赤くして耐える平石。

 「そうですよ。それじゃあ、次の曲いくよ!ルッキンフォーユアハート!」
 「ぜんぜん似てないやん!」
 「うるさい!モノマネ苦手なん、相方やったら知ってるやろ!そんなら、やらせるなや!w」
 「ここまでヒドイとは思わんかったもん。」
 「似てない似てない言うな!輝き、フィリンソウル。」

 再びカメラ目線の平石に、辻本が肩を叩く。

 「オマエ…ええかげんにしとかんと、ファンに刺されるで?w」
 「そらアカン。刺されるのはアカン。やめとこw」

 そんなとき、まるで測ったかのようなタイミングで双子の子供が一斉に声を上げた。

 「描けたよ!」
 「こっちも描けたよ!」




 「さ、描きあがったようですよ。」
 「どんなん描いてくれたんやろ?楽しみやなぁ。」

 幼稚園児を中心に、平石と辻本が両脇に立つ。
関西ローカルとはいえ仮にもレギュラー番組を持つ身ともなれば、常にカメラのことを意識して立ち位置にも気を配れなければならない。

 「それじゃあ、見せて頂きましょうか。はい、ドン!」
 「はい!」

 双子はスケッチブックをカメラの方へ向けて見せた。
紙の中心にペンをグリグリと走らせた跡がわかる。
いかにも幼稚園児の絵といった感じだ。
さすがに双子なだけあって、どちらの作品も似たような印象を与えた。
最初にコメントを発したのは辻本。

 「…何それ?」

 双子は元気に答える。

 「パパだよ。」
 「ママだよ。」

 辻本が思わず吹き出した。

 「めっちゃ下手くそやん!w こんなん何かわからへん。」
 「コラ!w おまえは何でそんなこと言うねん!相手は子供や!」

 すかさず平石が突っ込む。
ここで彼が何もしなければ、辻本がただの酷い男になってしまう。
しかし上手く突っ込むことが出来たなら、そこには笑いが生まれる。

 「だって、これ…。どこから見ても化け物ですやん。」
 「やめろって!w おまえ、子供んときもっと酷かったやろ!」

 せっかく描いた両親の絵を、バケモノとまで言われた子供の方はたまらない。
関西人の児童ならともかく、関東の子供にはこの手のトークは笑いに繋がるものと理解されなくとも無理はない。

 「むー!」
 「おじさん、ひどい!」

 双子が辻本に抗議の声を上げる。
しかし、彼は止まらない。

 「誰が、おじさんじゃ!」
 「ええかげんにせえ!w」

 さすがに言い過ぎだと、平石は思った。
気の弱い子供なら、ここで泣き出しても仕方がないところだ。
しかし、この双子は強かった。

 「おじさん!おじさん!」
 「どう見ても、おじさんだよね。」

 双子のテンションの高さにいけると判断したのか、辻本の絡みは止まらない。

 「おっさんとちゃうと言ってるやろ!ガオー!!」

 怖いというよりはマヌケな顔を作ると、両腕を上げて二人に襲いかかっていった。

 「わー、鬼だ!」
 「逃げろー!」

 はしゃいで逃げる双子の子供を、おかしな動きで追い回す辻本。
平石とカメラは、その場から動かずに眺めるだけだ。

 「アイツ、なんかメッチャおかしな動きしてますよ。幼稚園児にどんどん引き離されてるやんw あ、こけた。」




 やがて身体と顔に砂をつけた辻本が、落ち込んだ様子で戻ってきた。
 「転んでもうた…。」
 「見てましたよ。思いっきりズリーっ、いっとったね。」
 「何が悲しいてな…ギャグとちゃうねん。ガチやってんw」

 その言葉に、思わず平石も苦笑する。

 「あれ本気やったんや?w かっこ悪!」
 「うわぁ、ショックやわ。めっちゃ久しぶりに、こけてもうた。」

 そんな辻本に向かって、戻ってきた双子が仕返しとばかりに言葉を投げ付ける。

 「転んだ!転んだ!おじさん、かっこ悪い!」
 「転んだ場所に、おじさんの型がついてるよ!へんなのー。」
 「あはは、おかしいよね。」
 「おもしろい、おもしろい。」

 辻本がマヌケな顔を作って、双子のことを睨み返す。

 「誰のせいじゃ、コラ!おーまーえーらー!」

 辻本の態度に、双子はむしろ喜んでいるのがわかる。

 「また、おじさんが怒った!」
 「イライラビトだ!」
 「やかましい!これでも食らえ!アータタタタ!」

 再び子供たちに向かって行く辻本を、平石が引き止める。

 「子供相手に北斗神拳を使うな!w」
 「だって、こいつら生意気やねんもん!」
 「ツヨシくんには、そんな攻撃きかないよね!」
 「おう!メタルマンビーム!」
 「見ろ!向こうも戦う気マンマンやんけ!」
 「幼稚園児を本気で倒しにかかる大人が、どこにおるねん!w」

 平石は、双子の前にしゃがんで視線を合わせた。

 「ホンマごめんねー。後でこのおっさん、しばいといたるからな。」

 彼の言葉に、双子が顔を見合わせる。
 「しばいたるだって。」
 「源ちゃんの怒ったときと一緒だ。」

 彼らの背後から姉の少女の声が上がる。

 「わたしも描けました!」




 平石も辻本も、すっかり彼女のことを忘れていた。

 「おっと、お姉さんの方も描き上がったようですよ。」
 「こいつらより年齢いってるだけあって、今度は期待できそうやな。」

 二人は、少女中心の立ち位置でカメラに向かう。
双子はずっと、辻本の隣にまとわりついている。
すっかりなつかれたようだ。

 「それでは見せてもらいましょう。お姉さんの大好きなものです。はい、ドン!」
 「はーい!」

 スケッチブックを正面に向けてみんなに見せる。
そこに描かれた絵の迫力に、誰もが言葉を失った。

 「・・・・・。」

 最初に沈黙を破ったのは辻本だった。

 「うわー。これ何ー…?」

 みんなの反応とは裏腹に、少女はニコニコ笑顔で答えてみせる。

 「星たちです。わたしの大好きなもの。」

 続いて、平石も言葉を発した。

 「うーん。これは、どういっていいのか…。」

 彼女が手にしたスケッチブックには、なんとも形容のし難いものが描き込まれていた。
大小、さまざまな無数の円形。
その中には、小さな物体が細かく描きこまれているのだ。
しかし細かすぎ、つぶれてしまってその正体がわからない。
そしてその数え切れない程の円を取り囲むように、描き殴った線が乱雑に紙いっぱいに走っている。
いったい何をイメージして描かれたものなのか、理解できる人間がいるとは思えない。
少女の絵は、とてつもない破壊力のオーラを放っていた。

 「なぁ…。」

 辻本は少女には聞こえないように、気をつかって囁くように言った。

 「ごめん、いま素でメッチャ引いてもうたw」

 平石も全く同じことを考えていた。

 「わかるw わかるよ。まぁ、いろいろある年頃やし、そこはあまり触れん方がいいかもしれんね。」

 そこに双子の子供も加わってきた。

 「しょうがないよ。コメットさんは絵が苦手だもん。」
 「絵を描くのは好きだけど、上手じゃないんだよね。」

 辻本が真面目な顔で続ける。

 「いや、苦手とかいうようなレベルちゃうやん。破壊神降臨ですよ。」
 「コラ!さすがにそれは言い過ぎや!w」

 自分の聞こえないところでゴニョゴニョやっていることが気になるのか、少女が近付いてきた。

 「わたしの絵、どうですか?」

 慌てて平石と辻本がフォローに入る。

 「あ、うん!悪くないと思うよ。」
 「めっちゃ個性的な絵やと思うし。」

 二人の心境とは裏腹に、少女はとても嬉しそうだ。
双子が少女の腰に抱き着いた。

 「けどね、コメットさんは他にもっと得意なことあるよ。」
 「そうそう、星力!」
 「ピャーとね。」
 「ピャー!」

 意味のわからないことを言い始めた二人に、平石が尋ねる。

 「ほしぢから?何なの、それ?」
 「魔法だよ。」
 「魔法、魔法。」

 少女も説明に加わってくる。

 「魔法じゃなくて、星力。星たちの力を借りるの。」
 「こうやってね、エトワールって。」
 「星力、すごいよ。」
 「見せてあげたら?コメットさん。」
 「いいよ、何しようか?」
 「すっごく楽しいこと!」

 盛り上がってる子供たちを横目に、平石と辻本はお互いに苦笑するだけだ。

 「えっと。ちょっとメルヘンチックなお子さま達なのね。」
 「ちょっとどころか、かなりのもんやがな。」
 「まぁまぁ、立派なおもしろ人間ですよ。いい画が撮れたと思いますよ。」

 たしかにその通りだった。
ロケ一発目としては充分すぎる程、濃い画を撮影することが出来た。
これ以上この子供らと絡み続けても、編集で泣く泣くカットされる場面が増えるだけだろう。
今日のロケは、この海岸だけで済ませるわけではない。

 「ほな、次に行きましょか。」
 「そうやな。もう、ここは充分すぎるぐらい撮れたでしょ。」



 平石と辻本は、振り返って子供たちに声をかけた。

 「もう行くわ!君ら、ありがとうな!」
 「ありがとう!またな!」

 双子が意外といった様子で返事を返してくる。

 「星力みないの?」
 「凄いんだよ?」
 「うん。見たいんやけど、時間がないんや。ごめんな。」
 「これからまた別の場所でロケや。おっちゃんらも忙しいねん。」

 残念そうな顔になる双子。

 「そう。残念だね。」
 「またここに戻ってくる?」

 平石が答える。

 「そうやなぁ。今日はもう戻って来えへんわ。」
 「じゃあ、いつ来る?」

 辻本が答える。

 「いつやろうなぁ…。」
 「もう会えないの?」

 あんなに元気いっぱいだった双子の表情が、みるみる曇っていくのが分かった。

 「どっちのおじさんもおもしろいから、ネネちゃん好きだよ。」
 「ツヨシくんも好きだよ。」

 急に寂しさが襲ってくる平石と辻本。

 「あら…。」
 「嬉しいこと言ってくれるなぁ…。」

 しばしの沈黙の後、平石が提案する。

 「じゃあ…。また来年ぐらい、ここに帰って来ましょうよ。」
 「何?二周年記念とかで?」
 「また戻ってくるから、来年の今日、ここで待っててくれるか?」

 平石の言葉に、双子の顔がパっと明るくなる。

 「来年だね!絶対だよ!」
 「待ってるからね!約束だよ!」

 喜ぶ双子の姿に、平石と辻本は単純に感激していた。

 「おう!絶対に戻ってくるからな!おまえらこそ、ちゃんとここにおれよ!」
 「約束やぶったら、承知せえへんからなぁ!」
 「今度はパパも連れてくるよ!」
 「ママも連れてくるよ!」

 この二人は、本当に両親のことが好きなのだ。

 「ヨットに乗せてもらうの!」
 「お弁当を作ってもらうの!」

 辻本は平石の肩を叩いた。

 「なぁ。めっちゃイヤなこと言うけど…。この番組、来年もまだ続いてると思うか?w」
 「おまえ、そんな不吉なこと言うなや!w 不安になるやんけ!」

 平石と辻本は、子供たちに手を振って歩きだした。

 「じゃあな!」
 「また来年な!」

 双子とそのお姉さんも、大きく手を振って答える。

 「約束だからね!」
 「バイバーイ!」
 「わたしも一緒に待ってまーす!」

 子供たちは平石と辻本が見えなくなるまで、いつまでも手を振っていた。




 砂浜を歩いてロケバスに戻る二人の間に、今まで感じたことのない空気が漂っていた。

 「なんか…ええ子らやったな。」

 それが辻本の思いだが、しかし、あの子供たちがいつまでも今のままでいないことも分かっていた。
来年の約束などというものを、本気で信じているわけではない。
あの子たちも時間が立てば、自分たちのことなどキレイさっぱり忘れてしまうかもしれない。
子供は成長するものだ。
それは平石も分かっていることだろう。

 「うん。最初に人おらんかったときはどうなるかと思ったけど、予想以上の収穫でしたね。」

 しかし、来年もまた二人はここへ戻ってくるだろう。
例えそれが確証のない、あやふやなものだとしても、大人の方から約束を破るわけにはいかない。
それに心のどこかでは、あの子供たちが来年も待っていてくれるかもしれないと信じる気持ちになっていた。
何故そう思えるのかわからなかったが、あの子供たちはそうさせるパワーというか、雰囲気のようなものがあった。
通りすがりの小さな約束だったが、それが今は心地いい。
平石と辻本は初めて大阪難波の舞台に立ったときのような、なんとも新鮮な意識が戻ってくるのを感じていた。

 「また来年も、絶対に来よな。」
 「そうやね。せっかく関東で初めてのTAKOYAKIファンになってくれたんやもんな。ホンマありがたいわ。」




 ようやく砂浜を歩き通して、二人とスタッフはアスファルトの道へと戻ってきた。

 「それで、次の目的地はどこ?」
 「えっと…。次は大仏を見にいきます。」

 平石の言葉に、辻本はガックリと肩を落とした。

 「そんな所、どうせジジババとか、枯れた奴ばっかとちゃうん?やる気なくすわー。」

 ダラダラと歩く辻本の態度を、平石がたしなめる。

 「だからw 少しシャキっとして。これ一応は仕事中やで?」
 「さっきからうるさいのう。一人だけいい子ぶりやがって。」
 「いい子ぶってるって…、当たり前のことやがな。」
 「このボケが、ホンマに…。」

 辻本は平石の頭を平手で叩いた。

 「エトワール!」
 「痛っ!」

 何度も繰り返して叩き続ける。

 「痛い!痛いって!ちょっと待てや!」
 「ん?」
 「おまえ…エトワールって何やねん?w」
 「魔法です。うふ。」

 カメラ目線であどけたポーズをとる辻本。

 「あほか、何かわいく言うとんねん。大体それ、さっきの素人のネタやろ?w」

 辻本は魔法の呪文を続けた。

 「平石よ、ナメクジになーれ。エトワール。」
 「もうええって。おまえ、これからそれでやっていくの?」

 当然ながら何の効果もないが、辻本の呪文は止まらない。

 「こいつの頭、ソフトクリームみたいになーれー。エトワール。」
 「いや、それたぶん受けへんと思うけどなぁw」



 今回はお笑い番組ネタ。
TAKOYAKIは架空のお笑いコンビで現実には存在しません。
ボケはともかく、突っ込みの表現に困りました。
ただ『なんでやねん!』と書いただけだと、口調が怖いというか固くなる。
笑いを生み出す為の突っ込みを、どう表現すればいいのかわかりません。
最初は『(笑)』で記してみましたが、一つや二つならともかく、何度も続くとくどく感じます。
それで『w』にしてみたのですが、これもどうもしっくりこないような感じ。
しかし他にいい方法も思い付かないので、今回はこれでいくことにしました。
テレビのお笑いを文章で表現するのは、なかなか困難なことなのかもしれません。

 ちなみにわたしはお笑いのことなど、何にもわかっていない只の視聴者でしかありません。
いくつか笑いに関してわかったようなことを書いていますが、いいかげんなものなので真に受けないで下さい(笑


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