「へんしーん!」
オモチャのセットを身に着けて、テレビのライダーのマネをするのはツヨシくん。
「いくぞ!オルフェノク!」
ライダーに変身したつもりの彼は、目の前の敵に立ち向かいます。
しかし、勝手にオルフェノクと呼ばれたネネちゃんはたまりません。
「ネネちゃん、怪人じゃないもん。」
「ちゃんとやれよ。おもしろくないだろ。」
「倒されるなんて、ネネちゃん、イヤ!」
「二人とも、仲良く遊ぼうよ。それっ!」
コメットさんはバトンを出すと、さっと振りました。
「何したの?コメットさん。」
「ツヨシくん。もう一回、変身してみて。」
「うん。へんしーん!」
すると…。
赤い光がツヨシくんの体を包んだかと思った次の瞬間、彼は本物の仮面ライダーに変身していました。
背丈こそ変わらないものの、それはまさにテレビの中の仮面ライダーそのものです。
「うわぁ、すごいぞ!ツヨシくんライダー、さんじょうー!!」
「あっ!ネネちゃんも!ネネちゃんもやりたい!」
「順番だぞ。じゃあ、まずオルフェノクになれ。」
「ネネちゃん、オルフェノク。」
ツヨシくんライダーは、サッと大げさな構えをとります。
「いくぞ、ライダーキック!」
「あっ!だめ、ツヨシくん!!」
ハっとしたコメットさんが、ネネちゃんの体を引き寄せました。
空振りしたライダーキックは、そのままビューンと20メートルぐらい飛んでいって、公園の木に命中。
メリメリ…ドシーン!
当たった木は、折れて倒れてしまいました。
「うわぁ…。」
一番驚いているのは、キックを放ったライダー本人。
コメットさんとネネちゃんが、ツヨシくんの元へ走って駆け付けました。
「ツヨシくん、暴れちゃダメだよ。力もテレビのライダーそのままだから。」
そんな彼らを離れた場所から眺めているのは、メテオさんとムーク。
「相変わらずコメットは、バカなことばかりして遊んでいるのね。」
「たまにはヒメさまも、ご一緒に遊ばれるのもよろしいかと思うのですが。」
「子どもの遊びになんか、つきあっていられるもんですか。」
そんな昼下がりの公園の駐車場に、数台の自動車がやって来ました。
先頭のクルマから降りてきたのは、いま人気急上昇中のアイドル、今川シュン。
どうやってクルマを追いかけてきたのか、彼の後ろをたくさんの追っかけ達がゾロゾロとついて歩いていきます。
「きゃっ!シュンさまだわ!」
言うが早いか、彼の姿を見つけたメテオさんも、さっそくその列の最前列に割り込んでいきました。
列の先頭を歩くイマシュンはマネージャーと仕事の話に夢中で、後ろを振り向きもしません。
どうやらここで、新しいプロモーションビデオの1シーンを撮影するようです。
機材を備えたスタッフたちも、とても忙しそうに動き回っています。
「あぁ。真剣なシュンさまもステキ…。」
メテオさんはポ〜っとしながら歩いていきます。
「ちょっと、おまえジャマ。少し下がれよ。」
隣にいた大柄な女が、メテオさんに言いました。
しかし、ゴーイング マイ ウェイのメテオさんは聞く耳を持ちません。
それもイマシュンに関することなので、なおさらです。
「あんたこそジャマよ。わたくしとシュンさまの為に、道を空けなさいったら、空けなさい。」
その言い方が、この大柄な女には気に入らなかった様子でした。
「なんだよ、オメーは!」
頭に簡単に血を昇らせた大女は、大きな腕を振り上げてあっと言う間もなくメテオさんを突き飛ばしていました。
「キャッ!ちょっと、なにすんのよ!?」
「生意気なんだよ!」
「ムカー!!あなた、ぜったいに許しませんわ!!」
メテオさんも負けずに目の前の相手に、つかみかかっていきました。
しかし悲しいかな、体重差がありすぎます。
「きゃーっ!!」
相手に飛びかかったメテオさんでしたが、逆に体を抱え上げられ軽々と投げられてしまいました。
「オメーみたいな女に付きまとわれると、イマシュンが迷惑すんだよ!」
ドカーン!
投げ飛ばされたメテオさんは、腰の辺りを押さえてへたりこんでいます。
「いたたた…。」
「ヒメさま!ケガはございませんか!?」
ムークが側でオロオロとしていると、一連の騒ぎを見ていたコメットさん達も駆け寄ってきました。
「メテオさん!大丈夫!?」
「病院行く?」
心配そうに顔を覗き込みます。
「あ〜っ!!くやしいったら、くやしいですわ〜っ!!うぅ〜〜〜〜〜っっっっ!!!!」
「仕方がないよ。あの人、体おっきいもん。」
「柔道とかやってそうだよね。」
「プロレスラーかもね。」
そんな時、メテオさんの目にツヨシくんが腰に捲いたベルトが映りました。
「それ!そのオモチャ、わたくしに貸しなさい!!」
有無を言わさない勢いでツヨシくんのベルトを奪い取ると、メテオさんはスクっと立ち上がりました。
自分を投げ飛ばした大女に向かって、指を突き付けます。
「あなたのような人に、シュンさまのことを語って欲しくないものですわね!シュンさまのことは、わたくしが一番よく理解してますの!」
「なんだと、テメー!なめんじゃねーぞ!」
不穏な空気に気がついた他の追っかけの子たちは、一歩下がって成りゆきを見守っています。
誰もケンカを止めようとはしないのは、この大女がイマシュンファンクラブの影の会長と呼ばれていることと無関係ではないでしょう。
そんな女に、メテオさんは一人立ち向かったのです。
おそらく大勢の人の目に、無謀な行為だと映っていることでしょう。
しかし、メテオさんは全く引きません。
「わたくしとシュンさまの前から、消えなさいったら、消えなさい!」
「もう許さねえ!覚悟しろ、テメー!!」
ドス!ドス!ドス!
大女が足を鳴らして近付きます。
「覚悟するのはあんたの方よ!」
メテオさんは、ツヨシくんから奪ったベルトを腰に巻き付けると、携帯電話型の変身アイテムのファイズフォンを手に取りました。
キーナンバーを5、5、5と押してから、ENTERボタンを押します。
これらの手順は、さっきツヨシくんがやっていたのを離れた場所で見ていただけでしたが、なんとか思い出すことが出来ました。
怒りのパワーは人に集中力を与えてくれるのです。
---Standing By
キーアイテムが起動しました。
あとはベルトに合体させて、叫ぶだけです。
「変身!」
声も高らかに、メテオさんは手にした携帯電話をベルトのホルスターに装着させました。
次の瞬間、彼女の体を赤いラインが走って全身が白く発光し、やがて光が収まった後、そこには変身したメテオさんの姿がありました。
---Complete
星力が足りなかったのか、ヘルメットはなく足の素肌が見えていたりと、他にも所々で変身していない部分はありましたが、とりあえずメテオさんライダーファイズの誕生です。
「さぁ、かかって来なさい!」
メテオさんが大柄な女に向かって、ファイティングポーズ。
その直後、辺りは大爆笑の渦に巻き込まれました。
その女はもちろん、周囲のギャラリーまで巻き込んで、みんながお腹を抱えて笑っています。
「おまえ、バカじゃねーの?変身なんかしてんじゃねーよ!恥ずかしー!」
たしかにその通り、あらためて自分の姿を見直してみるとあまりにもマヌケです。
わけのわからない機材をゴチャゴチャと身に着け、しかもそれはテレビの子供向けヒーローのコスプレなのです。
正常な精神の持ち主なら、すぐにでもこの場から逃げ出してしまうことでしょう。
しかし、だからといって、この女に笑われる筋合いはありません。
こんな肉ダンゴのような体型をした生き物に、バカにされるなんてまっぴらです。
いつの間にか恥ずかしいと思う気持ちが、ムカムカした気持ちに変わっていきました。
「笑うなぁっ!!」
メテオさんライダーのスーパーパワー炸裂!
「ぐわぁぁぁっっっ!!!」
思いっきりライダーキックされたその女は、空の彼方へ吹っ飛んでいってしまいました。
辺りは、水を打ったようにシーンとなりました。
メテオさんがキッと睨むと、ギャラリー達はビクっと後ずさり。
もう彼女を笑う者は一人もいません。
メテオさんは実力で、影の会長と恐れられていた女を倒したのです。
この瞬間、新しい影の会長が誕生したことを周囲のファンクラブ会員は知りました。
「メテオさん、強い!」
「メテオさん、かっこいい!」
ツヨシくんとネネちゃんは目をキラキラとさせています。
「冗談じゃないわよ。もうこんな格好はゴメンだわ。どうやったら、これ、解けるのよ?」
「簡単だよ。ファイズフォンを外せばいいんだよ。」
「今度はネネちゃんが変身するの。貸して。」
「キミたち、どうかしたの?」
そんなところへ、騒ぎを聞き付けたイマシュンがやって来ました。
「あっ、シュンさま!」
大きな障害をはね除けて、今ようやく愛する人に会えたメテオさんが、イマシュンの側へと駆け寄ります。
「キ、キミ!なんてカッコしているの…?」
イマシュンは顔を引きつらせて、ビクっと後ずさり。
「え…。」
メテオさんも、ようやく自分の姿を思い出しました。
今の彼女は仮面ライダーのコスプレ姿。
それもマニアでも、ちょっと出せないぐらい精巧に再現されたライダーです。
「ぎゃぁぁぁ〜〜〜〜っっっ!!」
顔を真っ赤にしたメテオさんは、左腕に着けた時計型の装備のスイッチを入れました。
---Reformation
「恥ずかしいったら、恥ずかしいじゃないのよ〜〜〜っっっ!!」
---Start up
加速装置と同じ効果が発動し、それはもう、すごいスピードで走っていってしまいました。
追い付く術のないコメットさん達は、その後ろ姿をジっと見つめるしかありませんでした。
「…メテオさん、ツヨシくんのオモチャを持っていっちゃった。」
「ツヨシくん、ファイズアクセルの使い方まで教えてなかったのに。」
「次はネネちゃんが変身する番だったのに〜。」
そんな彼女を真剣な眼差しで、見ていた者がいました。
「いいねぇ。」
「あ、監督。」
イマシュンが監督と読んだその男は、熱心に考え込んでいるようです。
「彼女はキミの知り合いかね?」
「はい。まぁ…。」
「あの子はいい素質を持っている。今度の新作は彼女をメインにいきたいと思うのだが…。」
「本当ですか?」
「どうだろう。一度、ボクと面談の設定をしてもらえないだろうか?」
「それは構いませんけど…。」
「よろしく頼むよ。こんな気持ちになったのは久しぶりなんだ。撮るぞ!新作仮面ライダーシリーズ!」
コメットさん☆と仮面ライダーファイズの融合ストーリー。
メテオさんがファイズフォンを構えているイラストを描いたのがきっかけです。
2004年9月に加筆修正しました。
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