-フランダースのコメットさん-


■第11話 おばさまからの手紙■
第11話

 朝になりました。
コメットさんが起きると、スピカおばさまからの手紙がテーブルの上に置いてありました。

 『海でお魚をとる仕事をすることになりました。
  しばらく留守にします。
  急なことでごめんなさい。
  家のことはお隣さんに頼んでおきました。
  身体には気をつけて…。』

半分寝ぼけているコメットさんは、事態を理解するにのしばらく時間が必要でした。

 (04/7/27)

■第12話 お隣さん■
第12話

 それからコメットさんは、お隣さんに挨拶に行くことにしました。
お隣といっても、コメットさんの家から森一つ歩かなくてはいけません。

 ピンポーン

 大きな玄関のチャイムを鳴らすと、しばらく後に女の人が顔を見せました。
村一番のお嬢様、メテオさんでした。

 「あら、コメットじゃない。あなたがわたくしに何の用かしら?」
 「おはようございます。あの、これ…。」

 メテオさんに、スピカおばさまの残した手紙を見せます。

 「ふんふん…はぁ?どうしてわたくしが、あんたなんかを世話しないといけないのよ!」
「え?」
「だいたい、スピカの挨拶もないままというのはどういうこと!?こういうときは菓子折り持って、お願いしにくるものでしょ!?」

 なぜかはわかりませんが、どうやら話がちゃんと伝わっていなかったようです。

 「帰ります。どうもすいませんでした。」

 コメットさんは帰ろうとしました。

 「まぁ、いいわ。スピカが帰ってくるまで、ウチに住まわせてあげる。わたくしはとても情け深いの。」

 (04/08/05)

■第13話 お勉強■
第13話

 その日から毎日、コメットさんはたくさんの事をメテオさんから教わりました。

 「背筋を伸ばして!大口開いて喋らない!部屋はきちっと片付ける!知らないお姉さんに声をかけてはいけない!食事中にチンチ(以下略」

 コメットさんは慣れないドレスに苦労しながら、毎日がもう必死です。

 「あんたがおバカだと、わたしが恥をかくの!しっかり勉強なさーいっ!」

 (04/09/25)

■第14話 社交界デビュー■
第14話

 ある日、コメットさんはメテオさんに連れられてパーティーへと参加しました。
こんな場所は生まれて初めてです。

 「わぁー、すごい!」

 コメットさんはすっかり嬉しくなってしまって、大はしゃぎ。
今日まで教わっていたことなど、すっかり忘れてしまいました。

 「どうして下町の子が混ざっているの?」
 「いやぁね。あの子はどこの子かしら?」

 他の婦人たちが噂をしています。
メテオさんは恥ずかしくてたまりません。

 (何よ何よ!何なのよ!コメットったら、わたしに恥をかかせて!家に帰ったら憶えてなさいよっ!)

 しかし、コメットさんはそんなことに気がつきません。
クルクル回りながら、食べたり飲んだり踊ったりで大騒ぎです。

 「えぇ!あの子はメテオさんのお連れ?」
 「メテオさんたら、あんな子とおつき合いがあったのねぇ。」
 「お似合いといえば、お似合いですわ。」
 「おほほほほ。」

 ピキッ

 メテオさんはコメットさんに、おしおきすることを決意しました。

 (04/10/14)

■第15話 メテオさんの掟■
第15話

 家に帰ったメテオさんは、さっそくコメットさんへのおしおきを発表しました。

 「外出は禁止!テレビも禁止!お小遣いなし!マンガは全部捨てちゃいます!」

 コメットさんは尋ねました。

 「でも、メテオさん…」

 メテオさんは言いました。

 「『でも』はなし!まったく!」

 なぜメテオさんが怒っているのか、コメットさんはわかりませんでしたが素直に従いました。
お世話になっている人には逆らえません。

 「はい、メテオさん…。」
 「あーもう!バカにされた!バカにされた!悔しいったら、悔しいじゃないのよー!!」

 (04/10/29)

■第16話 紙芝居とコメットさん■
第16話

 ある日のお昼すぎ、村の広場に紙芝居のおじさんがやってきました。
部屋の窓から見ていたコメットさんは、嬉しくてたまりません。
この前に来たのはスピカおばさまと一緒に暮らしていた頃のことで、もう随分と久しぶりのような気がします。
コメットさんは嬉しさのあまりお屋敷から飛び出そうとしましたが、ふと思い出しました。

 メテオさんに外出は禁止されています。
お小遣いも止められているのでありません。
コメットさんはとても悲しくなりました。
目の前の広場に紙芝居が来ているのに見に行けないなんて、こんな残念なことはありません。
しばらく考えたコメットさんは、思いきってメテオさんにお願いしてみることにしました。
一生懸命お願いすれば、親切なメテオさんのこと、きっとわかってもらえると思ったのです。

 しかし、メテオさんは言いました。

 「ダメよ。」
 「でも、メテオさん…。」

 コメットさんは、どうしても紙芝居が見たかったのです。
これまで貧しい村の子供たちの、唯一の楽しみだったからです。

 「紙芝居なんてくだらないものを見るぐらいなら、ドイツ語の勉強でもしてなさい。」

 こちらに顔も向けずに冷たく言い放つメテオさんの態度に、コメットさんは、悲しいのか、悔しいのか、腹が立つのか、いろんなわけのわからない気持ちでいっぱいになりました。

 「けちけちメテオさん!!」

 それだけ言うと、コメットさんは部屋を飛び出していました。

 「な、なんですって!?こらっ!!待ちなさいったら、待ちなさーいっ!!」

 (04/11/12)

■第17話 柊のおじさん■
第17話

 メテオさんとケンカしたコメットさんは、裏の森まで走っていました。
外出は禁止されていましたが、もう関係ありません。

 「メテオさんのわからずや。ケチ。怒りんぼ。緑女。」

 静かな場所で、思い付く限りの悪口を呟きました。
しかし、いくらそんなことを言っても、ちっともスッキリとしません。
そんなときでした。

 「あれ、そこにいるのはコメットさんかい?」

 森に住んでいる柊おじさんが立っていました。

 「こんにちは。」
 「しばらくだね、ずっと心配していたんだよ。」
 「心配って?」
 「だって、スピカさんにキミのことを頼まれたからね。翌日に迎えに行ったんだけど、もう家には誰もいなくて…。」

 コメットさんはハっとしました。
そうです、おばさまの手紙に書いてあったお隣さんは、左隣の柊おじさんのことだったのです。
それなのに右隣のメテオさんのお屋敷を尋ねたのは、コメットさんの勘違いでした。

 「でも、こうして会えてよかったよ。さぁ、キミの部屋もちゃんと用意してあるんだよ。ウチへおいで。」

 (04/11/24)

■第18話 メテオさんとの別れ■
第18話

 メテオさんが通りかかると、いつの間にかコメットさんが自分の部屋に戻っていました。

 「帰っていたのなら、ただいまぐらい言いなさい。ん?」

 コメットさんは部屋中をひっくり返して荷物を整理しています。

 「あんた何してるの?家出でもするつもりかしら?」
 「はい。そうです。」

 皮肉っぽく言うメテオさんに、コメットさんはハッキリ答えました。

 「この家を出て行きます。」
 「そう、どこへでも行けばいいわ。帰ってきたときに扉の戸締まりはしておきなさいね。」

 やれやれといった感じで背を向けると、メテオさんは部屋を出ていきます。
 「わたし、もう戻ってきませんから。」
 「はいはい、気が済むまでご自由に。」

 全く相手にされていないと感じ取ったコメットさんは、ムっと腹が立ちました。

 「柊のおじさんの家にお世話になることにしたんです!だからここへは帰りません!」

 その言葉にメテオさんも振り返ります。

 「…本気なの?」

 思い掛けないメテオさんの真剣な表情にたじろくものの、ここで引くわけにもいきません。

 「そ、そうですよ。いじわるメテオさんは、キ…、キライです。」

 そう言った途端、メテオさんの態度が急変しました。

 「このバカ娘!さっさとどこへでも行っちゃいなさい!もうあんたの顔なんて見たくないったら、二度と見るものですかっ!!」

 驚いたコメットさんは、荷物を抱えると部屋を飛び出しました。

 (04/12/8)

■第19話 おじさんの家■
第19話

 柊のおじさんは、コメットさんを暖かく迎えてくれました。
おうちは小さいし、ごはんもごちそうではないけれど、おじさんはとても優しく見守ってくれます。
メテオさんのようにいじわるも言いません。
そんな生活に、コメットさんはスピカおばさまと暮らしていた頃に戻ったような気分になりました。

 おじさんは言います。

 「コメットさん、そんなにお行儀よくしなくてもいいんだよ。もっとラクにしていなさい。」
 「ううん、おじさん。わたしにキコリの仕事を教えてください。」

 恩返しをしたいと思ったコメットさんは、おじさんのお手伝いをするようになりました。
そしてあっという間に、一人でキコリの仕事ができるようになったのです。

 (04/12/17)

■第20話 楽しみだった紙芝居■
第20話

 そしてある日、とうとう紙芝居屋さんがやって来たのです。
コメットさんは、待ってましたと広場に一番で駆け付けました。
すぐ後に、子供たちが続々と集まってきます。
その中にツヨシくんとネネちゃんの姿もありました。

 「あれ?コメットさんがいるよ。コメットさーん!」
 「はーい!久しぶりだね、二人とも。」
 「紙芝居は見られないんじゃなかったの?」
 「もしかして、こっそり抜け出してきたの?」

 気をつかってか、二人がコソっと聞いてきます。

 「ううん。ちゃんと紙芝居を見てきますって言ってきたよ。」
 「メテオさんが許してくれたの!?」
 「違うよ。今は柊のおじさんの家に住んでるの。いじわるメテオさんの家へは帰らないもん。」

 広場の向こうの森の側に、メテオさんのお屋敷が見えます。

 やがて紙芝居が始まりました。
子供たちはおじさんの声に耳を傾けます。
コメットさんはお屋敷の方を見上げると、大きな声で叫びました。

 「メテオさん!わたし今から紙芝居を見ます!いけないって言っても見ちゃいますからね!もう、わたしはメテオさんと関係ないもん!言ったって何も聞ききませんよ!」

 周りのみんなはビックリしていましたが、思っていたことを言ってやりました。
コメットさんはしばらくお屋敷の様子をうかがっていましたが、メテオさんが飛び出してくることはありませんでした。
なんだか拍子抜けです。

 あんなに楽しみなはずだった紙芝居なのに、なぜかいつもほどおもしろいとは感じませんでした。

 (05/1/16)


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